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第1159回 モーニングセミナー講話要約【大野直希】

千曲倫理法人会

講話者:大野直希 氏
家庭倫理の会 長野市 会長

テーマ:おもてなしの実践

「気づいたらすぐする」から始まった実践

大野氏は旧上山田町の生まれ。子どもの頃の戸倉上山田温泉は、多くの観光客が訪れ、夜になると下駄の音を響かせながら大勢の人が歩く賑やかな温泉街でした。

現在は昼間に家族連れの姿が見られる一方、夜は昔に比べて静かになっています。

「もう一度、温泉街に賑わいを取り戻したい。自分にも何かできることはないか」

その思いが、現在のおもてなしの実践につながっています。

今回の講話で大野氏が特に大切にしていると語ったのが、『万人幸福の栞』の第1条「今日は最良の一日、今は無二の好機」と、第10条「働きは最上の喜び」です。

原点は29年前の姨捨駅

実践の始まりは、倫理を学ぶよりずっと前のことでした。

当時、JRで電車の運転士をしていた大野氏は、新型特急車両の試運転中に姨捨駅へ停車します。

日本三大車窓として知られる素晴らしい景色がある一方、駅のトイレは汚れ、自動販売機の周囲にはゴミがあふれていました。

「せっかく素晴らしい景色を見に来ても、足元がこれではもったいない」

そう感じた大野氏は、休日に自分の車で姨捨駅へ向かい、まず散乱したゴミを整理しました。

やがてトイレ掃除も始めます。

吐き気を催すほど汚れた便器を磨き、花を飾り、トイレットペーパーを使いやすくするなど、気づいたことを一つずつ改善していきました。

当時は倫理を知りませんでしたが、振り返ればまさに、

「気づいたらすぐする」

という実践をすでに行っていたのです。

「やってあげる」から「やらせていただく」へ

姨捨駅が観光地として注目されるようになると、周囲からさまざまな声が聞こえてくるようになりました。

そこで大野氏が気づいたのは、善意で行っていることでも、見る人によって受け取り方は違うということです。

「自分がやっている」と目立つのではなく、

「やらせていただいている」

という姿勢で取り組もうと考えるようになります。

人目の少ない早朝や夜に掃除を続け、誰かに評価されるためではなく、その場所を利用する次の人のために行動するようになりました。

目立たない仕事が信頼につながる

その後、活動は戸倉上山田温泉を見下ろす善光寺大本願別院・城泉山観音寺へと広がっていきます。

最初に任されたのは、誰からも見えない裏側の草むしりでした。

それでも言われたことを素直に続けました。

すると少しずつ信頼され、表側の掃除や、より大切な仕事も任されるようになります。

最初から目立つ場所で活躍しようとするのではなく、

「今、自分に任されたことをきちんとやる」

その積み重ねが信頼につながることを体験しました。

これは職場でも家庭でも同じです。評価される仕事だけでなく、誰も見ていないところで何をするかが、その人への信頼をつくっていきます。

故郷への感謝が温泉街のゴミ拾いへ

大野氏の両親は戸倉上山田温泉で長年飲食店を営んでいました。

店を閉じる話が出たとき、大野氏は改めて、

「この温泉街で商売をさせてもらったから、自分は育ててもらえた」

と感じます。

そのとき、それまで気にならなかった道端のタバコの吸い殻が目に入りました。

そこから温泉街のゴミ拾いが始まります。

現在は日曜日の早朝、家庭倫理の会の「おはよう倫理塾」が終わった後にゴミ拾いを続けています。

多いときには朝6時頃から11時頃まで、4〜5時間に及ぶこともあります。

それでも不思議と苦にならない。

「拾ってやっている」のではなく、

「育ててもらった町への感謝として、拾わせていただいている」

からです。

ゴミ拾いから「おもてなし」へ

大野氏の活動は、町をきれいにするだけでは終わりません。

早朝の温泉街では、浴衣を着て慣れない下駄を履きながら散歩する観光客に出会います。

そこで、

「よかったらお写真を撮りましょうか?」

と声をかけるようになりました。

戸倉上山田温泉らしい風景がきれいに入る場所を選び、少しユーモアも交えながらシャッターを切ります。

観光客から返ってくるのは、

「ありがとう」

という言葉です。

ほんの数分の出来事でも、その人にとっては旅の思い出になるかもしれません。

大野氏自身も、その「ありがとう」によって、

「自分にも人に喜んでもらえることがある」

と感じています。

おもてなしとは、大きなお金をかけたり特別なサービスを用意したりすることだけではありません。

目の前の人に気づき、

「自分にできることはないか」

と考え、すぐ行動することも立派なおもてなしです。

気づきを行動に変える

大野氏は、山へ向かう途中で「何か気になる」と感じ、予定を変えて確認したことで、土砂崩れや倒木を発見した経験も語りました。

そのままにせず、警察や関係者へすぐ連絡したことで、観光客の安全確保にもつながりました。

これも第1条の、

「今は無二の好機」

の実践です。

気づいても、

「後でいいか」
「誰かがやるだろう」

と考えれば、そこで終わります。

小さな違和感や気づきを、その場で行動へ移す。

大野氏が長年続けてきた活動の根底には、この姿勢があります。

「働きは最上の喜び」を体感する

好きでもないことを嫌々続けていると、時間は長く感じ、疲れも大きくなります。

一方、

「誰かの役に立ちたい」
「この町を良くしたい」

という思いで行動すると、同じ労力でも感じ方が変わります。

4〜5時間ゴミを拾っても、そこにあるのは嫌な疲れではなく「気持ちのいい疲れ」。

そして誰かから「ありがとう」と言われれば、人の喜びが自分の喜びになります。

大野氏にとって、これが第10条「働きは最上の喜び」の実感です。

人は人によって磨かれる

現在、大野氏自身も仕事上の人間関係に悩むことがあるといいます。

しかし倫理を学ぶ中で、相手の言葉だけを見て腹を立てるのではなく、

「この人は、こういう伝え方しかできないのかもしれない」
「本当は自分に良くなってほしいという思いがあるのかもしれない」

と、相手の背景まで考えられるようになってきました。

人は一人では磨かれません。

苦手な人も、助けてくれる人も、旅先で出会う人も、自分を成長させてくれる存在になり得ます。

だからこそ、

「出会った人によって自分を磨いてもらい、自分もまた誰かを良い方向へ磨ける存在になりたい」

と語りました。

今回の講話から持ち帰りたい実践

今回の講話で一貫していたのは、特別なことを始めるのではなく「目の前の小さな気づきを行動に変える」という姿勢です。

ゴミが落ちていたら拾う。

汚れていたら掃除する。

困っている観光客がいたら声をかける。

危険に気づいたらすぐ知らせる。

誰かに喜んでもらったら、その喜びを自分の喜びにする。

そして、それを「やってあげた」と考えるのではなく、

「やらせていただいた」

と受け止める。

29年前、姨捨駅のゴミに気づいたことから始まった小さな実践は、寺の清掃、戸倉上山田温泉のゴミ拾い、そして観光客へのおもてなしへと広がっていきました。

「気づいたらすぐする」

「働くこと、人に喜んでもらうことを自分の喜びにする」

この二つを日々の生活で積み重ねることが、家庭や職場、そして地域を少しずつ良くしていく。

大野氏の長年の実践そのものが、そのことを伝える講話でした。

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